★乳癌の8つのステージ分類と、治療の分岐点になる、5つのサブタイプとは?
乳がんでは、他の癌と同じように、がんの進行の程度を示す「ステージ」による分類に加えて、がんの増殖に関係するホルモンがあるかどうかなど、乳癌特有のがん細胞の特徴を示す「サブタイプ分類」という分け方があります。
この2つの分類は、肝心の乳がんの治療方法を決定する基準ともなるものです。
ご存知のように、「ステージ」は、一般的に、がんの進行の程度を示す分類で、腫瘍の大きさ、リンパ節転移があるなし、骨や肺など乳房以外の臓器への転移があるかないかによって、0期、1期、2A期、2B期、3A期、3B期、3C期、4期の8期に分けられています。
この分類は一般的に、世界的にも用いられるTMN分類を基準としたものです。
この分類のうち0期は「非浸潤がん」、1期以降は「浸潤がん」と呼ばれています。
「非浸潤がん」は極めて早期の乳がんで、手術療法のみでの根治が可能ですが、「浸潤がん」ではリンパ節転移や遠隔転移のリスクも高まりますので、術前術後などに薬物療法や放射線治療を行います。
また、特に「浸潤がん」のうちⅠ期は「早期がん」、Ⅲ期以降は「進行がん」と呼ばれます。
まず、乳がんはホルモン受容体であるエストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PR)があるものとないものに分けることができます。
ホルモン受容体がある乳がんでは、女性ホルモンが受容体と結合することによって、がんが増殖していると考えられます。
ですので、ホルモン療法は女性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬を使うことによっ、て乳がんの増殖を妨ぐことができると考えられます。
また、HER2(ハーツーと読みます)とは乳がんの増殖に関わっている、と考えられる細胞の表面にあるたんぱく質で、HER2受容体が陽性であれば、その動きを阻害する分子量的治療薬である抗HER2薬を用いた「抗HER2療法」が選択できる訳です。
またKi67(キー67と読みます))は増殖する細胞の核に存在するたんぱく質で、がんの増殖能を反映するバイオマーカーです。ホルモン受容体が陽性でHER2受容体が陰性、そしてKi67が低値であるタイプは「ルミナルA型」といい、乳がん全体の60%以上がこのタイプです。
HER2とホルモン受容体がすべて陰性の場合はトリプルネガティブと呼ばれ、化学療法での治療が行われます。
サブタイプ分類 | ホルモン受容体 | HER2 | Ki67値 | |
ER | PgR | |||
ルミナルA型 | 陽性 | 陽性 | 陰性 | 低 |
ルミナルB型(HER2陰性) | 陽性または陰性 | 弱陽性または陰性 | 陰性 | 高 |
ルミナルB型(HER2陽性) | 陽性 | 陽性または陰性 | 陽性 | 低~高 |
HER2型 | 陰性 | 陰性 | 陽性 | – |
トリプルネガティブ | 陰性 | 陰性 | 陰性 | – |
(国立がん研究センター がん情報サービスから引用)
*バイオマーカーとは、血液や尿などの体液や組織に含まれる、タンパク質や遺伝子などの生体内の物質で、病気の変化や治療に対する反応に相関し、指標となるものをバイオマーカーといいます。バイオマーカーの量を測定することで、病気の存在や進行度、治療の効果の指標となるもの。
Ki-67は乳がん全体の60%以上を占める「ルミナルA型」つまり、
ホルモン受容体陽性・HER2陰性の患者さんの術後補助療法を決定する指標として研究が始められ、Ki-67が高値ならば再発予防のためにホルモン治療に、抗がん薬治療を追加するのが、今の時点での標準治療となっています。
抗Ki67抗体でがん細胞を染色すると細胞の核が染まります。そして、1000個のがん細胞の内、何個染まっているのかを調べてパーセント表示します。その結果、Ki67が13.5~20%未満であれば、増殖の速度が遅く、抗がん剤が効きにくいタイプの乳がんであるということが報告された例もあります。
また、薬物療法の前と後でKi67の値が大きく低下するタイプの乳がんでは、腫瘍が著しく縮小し、予後が良好であったという報告例もあります。
ただ、ここで理解しておくべきことは、Ki-67の値だけで抗がん薬治療をするかどうかは判断できないということです。
「Ki-67の測定値は施設によって、また病理医間で相当なばらつきのあることが知られています。Ki-67の重大な問題点はこの再現性のなさです。どこからが高値でどこからが低値なのかということが定まっておらず、抗がん薬治療をするかしないかの基準値もわかっていません」
13.25%を基準にしてそれ以下なら低値なので抗がん薬は不要だとするならば、患者さんにどういうことが起こるかというと、病理医Aに判定されると抗がん薬治療をしたほうがいいと言われ、他の病理医Bに判定されるとしなくてもいいと言われるようなことが起こるわけです。本来ならば、最低90%以上の一致率が欲しいところですね。
かつては14%や20%というカットオフ値が提唱されたこともあるが、現在では参考程度という扱いで、臨床的なカットオフ値は置かないようになっているそうです。
現時点では、「Ki-67を単独の指標として、何%という値で区切って、抗がん薬治療をする・しないの指標に用いるようなことはすべきでないのです」
臨床的なエビデンス(科学的根拠)の確立はまだまだ先という事になります。
*カットオフ値=病態識別値ともいう。検査結果の陽性と陰性を鑑別する数値。この場合、Ki-67の高値群と低値群を分ける数値のこと。
迷うときは遺伝子検査のオンコタイプDXも選択肢に
オンコタイプDXで測定する21の遺伝子
浸潤・増殖・再発に関連する21の遺伝子
乳癌の治療方針を決めるときにどうしても迷うならば、遺伝子検査のオンコタイプDXを勧める医師もいます。
「オンコタイプDXは米国で開発され、世界的に広く行われている遺伝子検査です。
米国の会社に日本から送った患者さんの組織検体を検査してもらいますが、そこの施設だけで測定していますので病理医の見立てによって結果が異なるという、Ki-67検査で起こるような問題は生じません
オンコタイプDXは生検や手術で取り出した乳がん組織を用いて再発にかかわる21種類の遺伝子を調べ、どの程度再発しやすいか、また、術後化学療法がどの程度効くのかを予測するものですが、21種類の中にはER(エストロゲン受容体)やHER2、Ki-67も含まれていますので重複する検査も多いということです。
。
それらの遺伝子の発現状況によって再発スコアが算出され、「低リスク(スコア0~17点)」「中間リスク(同18~30点)」「高リスク(同31~100点)」に分類される。再発スコアが高リスクなら抗がん薬治療を追加、低リスクならホルモン療法のみ実施というように、治療方針の判断材料とするわけです。
オンコタイプDXの日本人のデータを見れば高リスクに入る人が4~5割、低リスクに入る人が2~3割、中間リスクが3~4割くらいです。
Ki-67でもグレードでも迷う人はやはりやりオンコタイプDXでも中間リスクという結果が出やすいのです。
そういった中間リスクの人たちは高額な費用と貴重な時間をかけた挙句にまた迷わなければならないという事になりますね。
この辺りに対する臨床試験も臨床試験が現在進行中とのことです。
その結果が出て抗がん薬治療をするかしないかの線引きが明確になれば、オンコタイプDXで調べるのがベストということになるでしょう」
実際に、日本でオンコタイプDXを希望する患者さんはまだ少数だと言うことです。いまだに、保険適用になっていませんので自費で35万円程度かかる高額な検査ということもあってなかなか難しいところですね。